「彼は誰時の向こう側」

解説のお時間です(笑) また長々と語ってます。
今回の本は自分の本ではあるけど、完全に捏造ってよりかは一応原作にある話の派生だから、レオ君はこう思ってたスティーブンさんはこう思ってたって書くのがすごい抵抗あったんですけど、(だって原作にある描写の部分ですら全部自分の妄想解釈だから)割り切って書きました。なので割り切って読んで貰えるとありがたいです。

この話はずっとぼんやりと頭の中にあった話で、1ヶ月くらいで描けそうな短い話を…と思った時にこれを形にしてみようと思いました。

(先日のブログ記事で描けそうな話を描いてしまうと言ったけれど、「描けそう」というのは、ページ数が少なくすみそうとか、時間的に間に合いそうとか、戦闘シーンみたいに見せ方が難しいシーンがないとか、調べるものが多くないとかそういう話であって、話をまとめてネームを切るっていう点においては全ての話で同じように苦しみながら生み出しています。この前の書き方だと話に優劣があるような誤解を与えちゃうかもと思って補足。)

スティレオ伝説の一夜回は、皆さんがもう絶対に一度は描いてるだろう話なので、もうだだかぶりするのは覚悟の上だったんですが、それでも他の方のお話を読んで話の流れが被ってるとやっちまったなぁっていう気持ちになります…よね(笑) 話の流れというのもゲームと同じで選択の繰り返しだと思うのですが、レオ君とスティーブンさんがあそこで会ったという紛れもない事実から、どんな選択をしてルートを決めていくかによってどういう話になるかが決まるわけで、選択が同じだと必然的に同じような流れになってしまうわけで…。あの話は特に選択肢が限られてくるので、「レオ君が帰る(ザップさんと又は一人で)」or「レオ君がスティーブンさんの家に行く」っていう実質2択の選択肢からのスタートになるんですよね。(ザップさんの緊急性とヴェデットさんはお子さんを連れての帰り道だからこの二人がその場に残る可能性は極めて少ないはず)

まぁだからこそ、この回はスティレオ神回なわけですけど。
材料がそろいすぎている(スティレオ以外はその場に残ることが出来ない、お互い種類は違えど傷ついている、レオ君を家に呼んだ場合スティーブンさんの一番デリケートで誰も知らない部分をレオ君が(レオ君だから)知ってしまう可能性、次の回でスティーブンさんがレオ君の名前を初めて呼んだ等々)上に、その先を想像してくださいと言わんばかり(勝手な妄想)の終わり方。普通に考えれば、レオ君はザップさんに連れられて一緒に帰るのかもしれないけど、でもザップさんの性格だと猫を見つけたらレオ君のことなど頭からすっぽ抜けてバイクだけ奪っていなくなると私は思う…。そしてスティーブンさんは夜中に満身創痍の神々の義眼持ちの少年をほっといて帰るような人ではないと思う…。いや、もう私の脳はスティレオ脳だからそれしかない!って無意識に思っちゃってるんだろうけど。
それでも、家に連れ帰らなくても、タクシー代くらいは出して乗るまで見送ってはくれるんじゃないのだろうか。それも十分スティレオ。

そして私は前にタクシー代を出して帰らせたっていう選択肢を描いたので、今回は連れ帰る方を選んだのですが、どうしても傷の手当からのご飯を食べる流れは鉄板になっちゃうよね~って某方のサンプルとか他の方の小説とか読んで苦笑いしてしまいました…。ううっ被ってる…。
やっぱさーレオ君にとって傷の手当をして貰うっていうのは、救済じゃないですか。一方で、スティーブンさんにとっては、ヴェデットさんの作ったローストビーフを美味しいといって食べて貰うっていうのは、これもまた救済だと思うんですよね。二人の気持ちを救いたいと思うと、そこはだから外せないなって。

流れは一緒でもその話を通じて何を言いたいか、伝えたいかによって中身自体は変わってくると思うので、その点が被ることはないかなと思っています。それは私にとっての救い(笑)
私が今回の話を描く上で描きたかったのは「二人の心の救済」でした。
「二人」というのが自分の中ではみそで、二人の心を救うためにあえてお互いに何があったのかとか一切話さないで会話も少な目にしました。
何故かと言えば、どちらかの話を聞いてしまったら、片方が完全に聞き役になってしまうと思ったから。お互い根本が優しいと思っているので、傷ついてる相手を前に自分の傷をわざわざ話して聞かせたりはしないだろうし、でもいくら優しい人間だとて、自分が傷ついてる時には相手のことよりも自分のことで精一杯になってしまうこともあるだろうと思うし、だから話をしてしまえば一方は救われてももう一方は消化できない傷を抱えたままになってしまうのではないかな…と。もちろんこの夜にすべて消化する必要はないから、一方の傷が癒えたことをきっかけにこれからが始まるというのもあると思います。だから何が正解というわけでもなく、私は今回そういう話を描きたかったっていう話。

この話では、お互いに何かがあったんだろうなぁということは察しつつ、あえて踏み込まない選択をしました。レオ君は残留オーラも見えるから、部屋に入ったら不穏なオーラを感知してしまえるだろうとは思うけど、でも義眼のコントロールは出来てるのだからみようとしない限りはみえないと思うんですよね。だから自分の意志でわざわざプライバシーの侵害になるようなことはしないんじゃないかなって。そしてたとえ何か見えたとしても言わないだろうなぁとも思う。ただ、それをスティーブンさんが信用出来るかって言ったら別の話だから、レオ君が本当に信用足るのかどうかっていうのは扉を開けて中に入るまでわからなかっただろうし、もしかしたら「友人たち」と同じ結果を繰り返してしまうかもしれない。書きはしなかったけど、スティーブンさんはレオ君を家にあげるまでものすごい葛藤と祈りがあったのではないかと思っています。だからそこをクリアしたレオ君に対して、まずはそこで救われているのではないかなって。
友人だと信じてた人に裏切られたけれど、再び人を信じられる…誰かとの関係性を築ける…誰もかれもが敵ではないってことをレオ君によって確かめたかった、レオ君が自分を害することなく一夜を共にしてくれたら…何事もなく朝を迎えられたら、また自分は人を信じる希望が持てるってそう思っていたのがスティーブンさん。冷血漢と言われた自分に「優しい」と言ってくれたレオ君に、とにかく優しくしたくて、誰かを慈しむことができる…そういう一面があることを必死でつなぎ留めたかったスティーブンさん。それが抱くっていう行為なのはどうなんだとも思いますけど(笑)でもそれは、ほんとに心からレオ君っていう存在を抱きしめて甘やかして慈しんでお互いの中にある暗く冷たい闇に熱を灯して一人だったら凍えて乗り越えられなかっただろう暗い道を手をつないで朝まで辿りつくっていう行程に必要だったんだと思ってください。
だからあの行為に恋愛感情はありません。神聖な儀式。

一方レオ君の方は、最初のモノローグにある通り、ホントに何も考えてなかった。何かを考える気力がなくて、ただついていったっていう感じ。
普段のレオ君だったらきっと、いやいやいや大丈夫です!って帰ると思うんだけど、あそこまでボロボロにされてチェインさんにはそっぽむかれて(チェインさんはちゃんと取り返してくれてるのを知らないっていうのがまた運命の別れて道だなぁ…)ザップさんには理不尽な扱い受けて、そんな時に普段は接点ない上司に優しく手を差し伸べられたら、そりゃついていっちゃうんじゃないかなー。
で、風呂の話なんですけど。日本人の感覚だと、ゆっくりするって言ったら風呂じゃないですか。まず風呂じゃないですか。なんの疑いもなく風呂を勧めてしまったんですが、描いたあとに、ん?欧米の人って風呂でゆっくりする??って疑問が湧いてきて…。私なんかは長風呂しながら今日あったこととか思い出したり色んなこと考えたりするんですけど、そういうのって日本人だけなのでは…?って思って。まぁ案の定風呂に入るのはごくまれって書いてあったからあちゃーーってなったんですけど、描いちゃった後だったので、強行しました…。でもあのシーン好きって言ってくださる方がいて描いて良かったと思いました…ありがとうございます…。
強くならなきゃっていうセリフは、レオ君だったら理不尽な状況にあっても自分の弱さをまずは考えてしまうのではないかな…と思い。あの日の傷つき具合が深いのではないかと思った理由の一つに、相手が観光客だったということ。異界人相手ではなく普通の人。(チンピラではあるけれど)そういう相手にも負けてしまうということ。そしてチェインさんのスルー。想像しただけでも、ものすごい無力感に苛まれるよなぁと。でもほんとにこの回は読めば読むほど秀逸だと思うんですよね。みごとに色んなものが絡み合って収束してて。レオ君の弱さは強さでもあるし、弱いがゆえに人を傷つける恐ろしさを知っていて…命を奪わない選択をして生き残れるほど甘くないっていう世界で迷わずそれを貫ける。それは甘くない道を自ら選んで進んでるってことと同義だもんね。強くなりたいっていうのは、けして誰かと戦って勝ちたいって意味じゃなく、守りたいものを守りきれる…とか誰かに頼るんじゃなくピンチも切り抜ける…とか逆に頼りにされる自分になる、とかそういう意味での強さだと思ってる。

あのシーンの強くなりたいっていうセリフは、スティーブンさんにもかかっていて。スティーブンさんの場合は、人の心の柔い部分を押し殺してしまいたいっていう思い。冷血漢と言われても、心の底で冷血漢になりきれない自分との葛藤。レオ君と出会ってなかったら、このまま柔い部分は捨ててしまっていたかもしれない、と思う。

とにかく凹んでるレオ君は、無意識に誰かの優しさに飢えていて。HLに来てやっと落ち着ける場所が見つかって色々考える余裕も出てきた頃って、一番ホームシックにかかりやすいのではないかなと思うんです。来た当初のがむしゃらだった頃は、考える余裕もなく焦りばかりが募ると思うんですが、落ち着いてきたころって、ふと昔を思い出したり自分のことを顧みたりする時間が出来るから、この回ってちょうどそういう時期なのかなって思ってて。そういう時だから余計に心が傷ついてどうしようもない感じになっちゃってるんじゃないかなって。だからいつもはお兄ちゃんなレオ君も、スティーブンさんの家で危険もなく落ち着いてご飯を食べてけがの手当もして貰って風呂に入ってあったまって…って完全な安心に身を置いたらもうどこまでもズブズブ甘やかして欲しいって思っちゃうんじゃないだろうかと。しかも相手は包容力があって強い大人。そんな人に優しくされたら、なんかもう全部預けたくなってもおかしくないんじゃないのと。

相手のことより自分のことしか考えられてない二人だけど、優しくしたいスティーブンさんと優しくされたかったレオ君、お互いの望みは合致していたので、結果としてああいうベッドシーンに。そしてそれが二人にとっての救いになればいいなと。

「全部僕のせいにして…」っていうセリフは、私がスティーブンさんに言ってほしいセリフナンバーワンなので、今回言って貰うことが出来て良かったです!!(言わせたんだけど)
泣いてしまうのは、君が弱いからじゃない、僕のせいなんだって言ってレオ君のすべてを許してくれる。そしてレオ君も。
このシーンは自分でとてもお気に入り。


(突然泊まらせて貰った上司から抱きたいとか言われたら現実だったら即アウト案件だよっていう自覚はあったんですけど…そんなの関係ねーって小島よ〇おが…)
 
一緒に朝を迎えた二人にとって、その日は昨日の続きだったとしても昨日とは確実に違う一日の始まりだったと思う。

「彼は誰時の向こう側」というタイトルについてはそういう夜明けを意味する言葉をつけたくて結構悩みました。
夜明け…だとストレートすぎるな、と思い夜明けと同じ意味の言葉を探して見つけたのが「彼は誰時」。明け方の薄暗い時間帯を指す言葉です。夕方が「誰そ彼」(黄昏)っていうのは良くききますが、「彼は誰時」はあまりきかなかったので、良い言葉を知ったなぁと思いました。暗くて相手の顔が見えないから「あなたは誰ですか?」と聞かないとわからない…こういう情緒があるのが日本語の良いとこですよね。
「あなたは誰ですか?と聞かないとわからない、そんな時を越えてあなたが誰か(あなたはどういう人なのか)わかるようになる」タイトルにはそういう意味を込めました。

恋愛感情のないまま身体をつなげた二人ですが、実はキスはしていません。入れたくていれられなかったシーンに、スティーブンさんが「キスはしないでおくよ、それは好きな人と…」って言うってのがあって。その時はそっかって思ったレオ君が、朝スティーブンさんの家を出るときに「キス、したかったなぁ」って思う。そこで好きになってしまったことに気付くけど、何事もなかったように家を出ていく。そんなシーンが描いてないけどありました。
だからこの二人は、キスよりすごいことしてるのに、キスするのにめちゃくちゃ時間かかるんじゃないかなと思います(笑)

最初はレオ君の方からスティーブンさんに食事を誘うって考えてたんですが、それだとスティーブンさんからの気持ちが見えないなぁと思って、スティーブンさんからレオ君を誘って貰いました。ゆっくり恋を育んで、またスティーブンさんの家に行った時には、あの時の話をしながら笑いあって欲しいなと思います。

以上!!ありがとうございました!!


支部にアップされていた某方様の再録漫画を拝見して、猫のシーンが構図から何からまるっと丸被りしていることに気付いて血の気がひきました。ホントに全くの偶然なんですけど、って後から描いてる私が言っても説得力ないんですが、今日WEB再録で初めて拝見したので、ほんとに知らなかったのです…。お話の流れが被るのはしょーがないなぁと思っていたけど、まさかシーンがまるっと被るとは思わず…神に誓ってパクリとかしてませんってことを弁明させてください…